中央大学・研究開発機構 気候変動ユニット

GOSAT-GWセンサ開発

PROJECT OVERVIEW

これまで

国立研究開発法人国立環境研究所(NIES)は、環境省及び国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)とともに世界初の温室効果ガス専用の観測衛星として温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(Greenhouse gases Observing Satellite:GOSAT)を開発し、平成21年に打上げ後、設計寿命5年に対し11年を超えた現在も観測を続けています。

取得されたデータからは、主な温室効果ガスである二酸化炭素とメタンの全球の濃度分布状況の変化と全球平均濃度が季節変動をしながらも上昇している傾向が明らかとなっており、これらの情報はNIESより世界に配信されています。

温室効果ガス濃度の上昇傾向が緩む兆しが見られない中、パリ協定の目標達成に向けた各国の温室効果ガス排出量削減政策とその達成状況の把握に貢献するため、環境省、NIES及びJAXAは、GOSATの役割を発展的に継続する衛星、温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT-2)を開発し、平成30年10月に打上げ、平成31年2月より定常運用を開始し、同年8月より一般へのプロダクト提供を始めました。
なおGOSAT-2の設計寿命は5年のところ、令和5年以降も全球の温室効果ガス観測体制を維持することが国際的にも求められています。

経緯

このような情勢の中、NIESと環境省は、GOSATとGOSAT-2でこれまで培ったノウハウを生かし、温室効果ガス排出源の特定能力と排出量推定精度を向上させた温室効果ガス観測センサ3型(TANSO-3)を、宇宙基本計画(平成 28年4月1日閣議決定)及び工程表(令和元年12月13日本部決定)に則り、平成30年より設計を開始しています。

一方、TANSO-3を搭載する温室効果ガス観測技術衛星3号機は、文部科学省の水循環変動観測衛星(GCOM-W)に搭載されているマイクロ波放射計2の後継ミッションセンサである「高性能マイクロ波放射計3(AMSR3)」を相乗りさせ、温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)として、令和5年度の打ち上げに向け開発を進めています。

プロジェクトの目的

GOSAT-GWは、GOSAT、GOSAT-2 のミッションを継続するとともに、パリ協定に基づく各国のGHGインベントリ報告の透明性の確保並びに大規模排出源の監視等を目指しています。

本業務は、JAXAが開発しているTANSO-3の試作機(開発モデル)の設計、製作、試験の各段階において、想定されるTANSO-3の濃度測定性能を評価することを可能とするTANSO-3シミュレーターを開発するものです。

なお、開発したTANSO-3シミュレーターは、今後実施されるセンサ実機及び関連システムの設計・製作段階、並びにGOSAT-GW打ち上げ後に行うセンサ性能評価でも活用することを予定しています。

  • 三次元大気濃度分布(仮想大気濃度場)を算出しデータセットを作成する機能を開発する
    また、「モンゴルを対象としたGOSATシリーズ温室効果ガス排出量推計精度評価」の成果を最大限活用し作業の効率化を図る
  • NIESで作成したレベル1試作プロダクトを入力情報としてレベル2プロダクトを試作する
  • 三次元大気濃度分布(仮想大気濃度場)データとレベル2プロダクトで得られるCO2、CH4、NO2の各カラム濃度(シミュレーション結果)の比較評価する
  • シミュレーション結果で得られたレベル2試作プロダクトを基に人為起源の温室効果ガス(CO2,CH4を想定)排出量の推計を行い、三次元大気濃度分布(仮想大気濃度場)の作成時に使用したインベントリからの温室効果ガス排出量の比較評価を行う

本事業における L2プロダクト相当の推定方法及び温室効果ガスの排出量推計方法の概要

本事業における L2プロダクト相当の推定方法及び温室効果ガスの排出量推計方法の概要

三次元大気濃度分布(仮想大気濃度場)データ作成機能開発

三次元大気濃度分布(仮想大気濃度場)を算出し、データセットを作成する機能を開発します。順解析のモデルは、表(WRF-Chem V4のメタン関連の主なモジュールについて)に基づく構成で構築しました。

  • ※ Wetland, Soil uptake, シロアリからの吸排出は考慮されています
  • ※ 永久凍土からの排出は入っていません
  1. ① 対象とする気体成分等はCO2, CH4, CO, NO2, そのほかエアロゾルとしてPM10等としました。
  2. ② 対象地域はモンゴルおよびウランバートル市内で、モンゴル国全土を対象とした計算では水平解像度9km、ウランバートル市内を対象とした計算では水平解像度1kmでグリッドを構築しました。
  3. ③ 高度分割数はCO2計算では35層、そのほかの気体成分は34層で構築しました。したがって、モデルは A)モンゴル全土CO2、B)モンゴル全土CO2以外、C)ウランバートル市CO2、D)ウランバートル市CO2以外の4通り構築しました。

WRF-Chem V4のメタン関連の主なモジュールについて

レベル2試作プロダクトの作成機能の開発

NIESで作成したレベル1試作プロダクトを入力情報として、レベル2プロダクトを試作しました。

リトリーバル処理環境の構築

着目する波長帯及びフォワード計算で考慮する吸収ガス種は以下のとおりとした。
また、フォワード計算及びリトリーバル計算を通じ、共通とした条件は以下の通りです。

フォワードモデルの構築

レベル1試作プロダクトとして、GOSAT-GWを想定したFTSL1Bプロダクトを入力情報として放射スペクトルとスペクトルに対するstate vectorのヤコビ行列を算出するフォワードモデルを構築しました。

インバースモデルの構築

ヤコビ行列と放射スペクトルからCO2, CH4, NO2等のカラム濃度を逆解析するインバースモデルを構築しました。構築にあたっては、SCIATRANを用いたフォワードモデルにリトリーバル処理機能を新たに付加しました。リトリーバル処理についてはJet Propulsion LaboratoryによるOCO-2 Level 2 Full Physics Retrieval Algorithm等のアルゴリズムを参考として構築を行いました。

カラム濃度の算出

モンゴルのウランバートル市近隣におけるGOSAT-GWを想定したL1Bプロダクトを入力情報とした際のCO2, CH4, NO2等のカラム濃度を試算しました。まず、テストケース地点における2017年9月19日のリトリーバル計算を実施しました。各気体のカラム平均濃度は良好に再現されています。ウランバートル市周辺における9km間隔及び1km間隔の地点を対象に、TANSO3シミュレーターによるレベル1試作プロダクトを用いたカラム平均濃度の算出を行いました。

シミュレーション結果の評価

「三次元大気濃度分布(仮想大気濃度場)データ作成機能開発」で得られた三次元大気濃度分布(仮想大気濃度場)データを真値として、「レベル2試作プロダクトの作成機能の開発」で得られたCO2、CH4、NO2の各カラム濃度(シミュレーション結果)の比較評価しました。

排出量推計精度の評価

「シミュレーション結果の評価」で得られたレベル2試作プロダクトを基に人為起源の温室効果ガス(CO2,CH4を想定)排出量の推計を行い、「三次元大気濃度分布(仮想大気濃度場)データ作成機能開発」の三次元大気濃度分布(仮想大気濃度場)の作成時に使用したインベントリからの温室効果ガス排出量の比較評価を行いました。

主な成果

  1. TANSO-3シミュレーターから得られる放射輝度スペクトル等レベル1試作プロダクトを入力値としてリトリーバル処理するアルゴリズムを構築しました。
  2. このアルゴリズムを用いて、カラムCO2(XCO2)濃度、カラムCH4(XCH4)濃度、カラムNO2(XNO2)濃度をそれぞれ算出しました。算出されたリトリーバル処理結果と三次元大気濃度分布モデル解析結果との比較を実施した結果、XCO2、XCH4、XNO2の絶対値の差分は解像度9kmでのリトリーバル処理結果について、XCO2が1.04~1.17ppm、XCH4が0.0021~0.0546ppm、XNO2が0.0000293~0.0000442ppmでした。また、解像度1kmの場合はXCO2が0.46~0.51ppm、XCH4が0.0760~0.142ppm、XNO2が0.0000018~0.0000025ppmの差分でした。
  3. 算出されたXCO2濃度値を用いてCO2についてグリーン関数による逆解析を実施してCO2インベントリとの比較を実施しました。その結果、解像度9kmでは2017年GHG排出インベントリ(本事業推定値)は真値に対して約-3.0%~+4.6%、解像度1kmでは-1.5%~+2.9%の差分レンジでCO2の事後排出量を推定することができました。この誤差レンジはa priori(先験的)誤差としてGOSATによるXCO2の観測誤差を4.0(ppmv)、排出量の誤差を400(ton/h)と設定した場合に生じることを示しました。