中央大学・研究開発機構 気候変動ユニット

GOSAT検証・モンゴル

PROJECT OVERVIEW

モンゴルを対象としたGOSATシリーズ温室効果ガス排出量推計精度評価

はじめに

環境省は、気候変動に関する科学の発展及び各国の気候変動政策への貢献を継続的に果たすため、宇宙基本計画に基づき、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)及び後継機「いぶき2号」(GOSAT-2)を国立研究開発法人国立環境研究所と国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構との共同で、開発、打上げ、運用、データ無償配布を行っています。

2009年の打上げから11年を経過したGOSATの運用を継続するとともに、2018年10月末に打上げたGOSAT-2の定常運用を2019年2月より行うとともに、観測センサの性能及び観測データの有効性を評価したのち、8月よりレベル1プロダクト(スペクトルデータ)の提供を開始し、レベル2プロダクト(濃度データ)の研究者提供も順次行っています。

GOSAT-2は、GOSAT同様、二酸化炭素及びメタンの地球規模での濃度監視を行うほか、人為起源排出量推定の高度化を目的とした世界初となる宇宙からの二酸化炭素及び一酸化炭素の同時観測により、人間活動により排出された二酸化炭素の発生源の特定と排出量の推定精度向上を目指しています。

国際動向

国際社会では、パリ協定に基づき、各国は温室効果ガス(GHG)の人為起源排出量の報告が義務づけられています。
この報告をより透明性の高いものとするため、日本は、GOSAT及びGOSAT-2(以下、GOSATシリーズ)が観測したデータを用いて、各国が自ら排出量報告を比較検証することを推進しています。

二酸化炭素の主な排出源のひとつである都市からの排出量を正確に推計するには、大気による輸送や植生による吸排出等の影響を正確に把握し、補正する必要があります。

プロジェクトの目的

昨年度に引き続き、GOSATシリーズの客観的精度検証の一環として、ウランバートルを中心とする都市域と広大な草原域を有するモンゴルを対象に、温室効果ガスインベントリに計上された二酸化炭素排出量とGOSATシリーズをはじめ衛星観測データより推計した排出量を比較検証し、日本のGOSATシリーズの有効性を評価し信頼性を裏付けることを目的とします。

ウランバートル市およびその周辺におけるGHG吸排出量の推計精度の評価

2018年のウランバートル市および周辺を対象として、これに基づいてCO2インベントリおよび大気輸送モデルに基づきWRF-Chemで推定したCO2濃度の空間分布と、衛星観測データ及び大気輸送モデルに基づき推定されるGOSATプロダクトのCO2濃度の空間分布を比較し、その差分を最適化するグリーン関数をGOSAT観測結果とWRF-Chemのシミュレーション結果から構築して逆解析を実施しました。

その結果、2018年GHG排出インベントリ(GDP推定値)から約+0.3%~+4.3%の誤差レンジでCO2の事後排出量を推定可能とするモデルを構築しました。

この誤差レンジはa priori(先験的)誤差としてGOSATによるXCO2の観測誤差を2ppmv、排出量の誤差を200, 400, 800ton/hと設定した場合に生じることを示しました。

WRF-Chem V4のメタン関連の主なモジュールについて

モンゴル全土におけるGHG吸排出量の推計精度の評価

2018年のモンゴル全土を対象として、GHGインベントリおよび大気輸送モデルに基づきWRF-Chemで推定したGHG濃度の空間分布と、衛星観測データ及び大気輸送モデルに基づき推定されるGOSATプロダクトのGHG濃度の空間分布を比較し、その差分を最適化した「ウランバートル市およびその周辺におけるGHG吸排出量の推計精度の評価」の事後排出量を入力値とするWRF-ChemおよびVPRMモデルを用いて、モンゴル国家GHGインベントリで集計対象である森林でのCO2吸排出量を算出しました。

モンゴル国家GHG排出インベントリと本モデルによる推定結果を比較した結果、モンゴル国家GHG吸収インベントリでは-24,452GgCO2(2014年)、本モデルでは-176,930GgCO2(2018年)といった違いがみられましたが、既往研究や草原フラックスの現地観測結果とモデル結果に大きな相違はないことから、モンゴル側とさらに精緻化に努めていくことが求められます。

GOSATのXCO2(ppm)と本業務で構築した事後排出量を入力値とするWRF-ChemモデルによるXCO2シミュレーション結果の差分の空間分布では、GOSATのXCO2が低く見られるケースがみられました。
これは国境付近や国境外において、境界条件で今回用いている独マックス・プランク研究所の全球CO2大気輸送シミュレーション結果であるTM3データでは過小評価されているようなミッシングソース等がみられる時期や可能性も示唆していますが、今後、ラグランジュ粒子モデル等の計算対象領域外を排出源とする排出量も特定できるようなモデルを構築することによって精緻化できると期待されます。

GHG排出量推計精度評価のための地上観測データの収集・整備

本事業を実施する上で必要な、CO2フラックス観測データの収集とGHG濃度の計測を行いました。

ウランバートル近郊における観測地点のうち、Nalaikhでは吸収源となっているに対し、Ovorzaisanではほぼネット0、特にHustaiでは年間を通してCO2放出源となっていることが示されました。サイト間での降水量の違いをはじめとする植生や土壌水分量の違い等がCO2吸排出量の違いをもたらす可能性があります。
なお、このCO2フラックスの観測結果は「モンゴル全土におけるGHG吸排出量の推計精度の評価」におけるCO2吸排出量との比較に用いました。

また、ウランバートル市内において、CO2フラックス観測のデータ取得や較正・管理、地上およびテレビ塔でのフラスコサンプリングについて、モンゴル気象水文研究所(IRIMHE)およびモンゴル科学院地理研究所(IGGMAS)と共同で実施し、同時にPM2.5等の大気汚染物質の観測データを収集・整理しました。

大気汚染物質の観測データを解析した結果では、モンゴル政府が大気汚染改善政策として実施した、ゲル地区での石炭燃焼禁止とブリケットへの燃料転換により、PM2.5濃度は著しく改善したことが示されました。
地上観測点におけるCO2連続観測結果をデータ解析した結果では、燃料転換によるCO2排出削減効果は顕著には見られませんでしたが、GOSATデータを用いて推定した地上CO2濃度は減少傾向にあったことを示しました。

  • Nalaikh, HustaiにおけるCO2フラックス測定システムの設置場所

情報公開の支援等

本事業の成果内容を環境省担当官と共有したうえで、以下2つの会議を実施しました。

A) 2021年2月1日にBatjargal気候変動特使を筆頭とするモンゴル政府関係者への本事業の進捗説明会を実施して本結果の確認をいただきました。
その際、UNFCCCに提出する2018年版モンゴル国家GHG排出インベントリ作成への参考として引用されることや、CO2吸収量に対する精緻化に向けて協働していくことを合意しました。

B) 2021年2月12日にUNFCCCにてGlobal Stocktakeを所管する「Intergovernmental Support and Collective Progress (ISCP) Division」の理事である Youssef Nassef氏とオンライン会談し、①本事業で開発したGHGインベントリ推定方法はモンゴルと共同で開発するアプローチをとっていることからモンゴル国自ら活用する持続的な方法として定着させるために大変有効な方法であること、②この方法でいくつかの他国でも実証できれば、世界のスタンダードの1つとして認められると想定されること、といった評価を得ました。
その際、同様のアプローチでGlobal Stocktakeの検証プロセスに水平展開するための具体的な国としてカザフスタンなど諸外国を、またUNFCCCのGlobal Stocktake専門集団を、それぞれ紹介する意向をいただきました。
また、オンラインで開催されたThe 16th international workshop on greenhouse gas measurements from space(IWGGMS-16)に参加し、衛星データを活用した逆解析の手法などのトレンド情報を収集しました。
逆解析にはラグランジュ粒子モデルや濃度差を用いた方法など多様な方法論が報告されましたが、確立した常用とされる方法論や条件などが整理されてはおらず、多様な方法論をトライしている現状が浮き彫りになりました。

主な成果

  1. GOSAT-series観測結果とWRF-ChemおよびVPRMモデルを用いたグリーン関数による逆解析により、モンゴル国家GHG排出インベントリ(GDP推定値)から約+0.3%~+4.3%の誤差レンジでGHG排出インベントリの事後排出量を推定可能なモデルを構築しました。
  2. モンゴル国家GHGインベントリで集計対象である森林でのCO2吸排出量を比較したところ、モンゴル国家GHG排出インベントリでは-24,452GgCO2(2014年)、本モデルでは-177,975GgCO2(2018年)といった違いがみられましたが、既往研究や草原フラックスの現地観測結果とモデル結果に大きな相違はないことから、モンゴル側とさらに精緻化に努めていくことが求められます。
  3. モンゴル政府が大気汚染改善政策として実施した、ゲル地区での石炭燃焼禁止とブリケットへの燃料転換により、PM2.5濃度は著しく改善しました。地上観測点におけるCO2連続観測結果において排出削減効果が顕著には見られませんでしたが、GOSATデータを用いて推定した地上CO2濃度は減少傾向にありました。
  4. 2021年2月1日にモンゴル政府へのGOSAT進捗説明会を実施し、上記結果の確認をしていただきました。その際、UNFCCCに提出する2018年版モンゴル国家GHG排出インベントリ作成への参考として引用されることや、CO2吸収量に対する精緻化に向けて協働していくことを合意しました。