中央大学・研究開発機構 気候変動ユニット

GOSAT検証・中央アジア

PROJECT OVERVIEW

はじめに

環境省は、気候変動に関する科学の発展及び各国の気候変動政策への貢献を継続的に果たすため、宇宙基本計画に基づき、主要な温室効果ガスである二酸化炭素やメタンの濃度を宇宙から測定する温室効果ガス観測技術衛星「GOSAT」「GOSAT-2」及びこれらの後継機となる「GOSAT-GW」の各プロジェクトを国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)、国立研究開発法人国立環境研究所(NIES)と共同で進めています。

国際動向

国連気候変動に関する政府間パネルの第49回総会では、温室効果ガスGHG)の排出量をより正確に算定するための指針「IPCC温室効果ガスインベントリガイドライン2006)」が改定され、人工衛星データを活用することが初めて盛り込まれるとともに、「GOSAT」及び「GOSAT-2」による世界各国の排出量報告精度向上への期待が示されました。

各国はパリ協定に基づき温室効果ガスの排出量・吸収量の報告を義務づけられていますが、この報告をより透明性の高いものとするため、日本はGOSATシリーズが観測したデータを用いて、各国が作成しているCO2排出インベントリを自ら比較・検証することを推進しています。

これまで

環境省では、平成30年度より3年間「平成30年度、平成31年度、令和2年度モンゴルと対象としたGOSATシリーズ温室効果ガス排出量推計精度評価委託業務」を通じてモンゴル国政府の協力の下、同国を対象とし、同国が整備したCO2排出インベントリデータとGOSAT観測データを比較し、GOSAT観測データから排出量を推計する技術を開発してきました。

その結果、同国のCO2排出インベントリのエネルギー部門の値(2014年値に対して、GDPを勘案して2018年の値として推計した値)と、GOSAT観測データから推計した2018年CO2排出量とを比較すると、概ね一致するまで技術を高めることに成功し、同国政府から、令和3年12月に「今後、2018年時のインベントリ報告書作成作業時に、今回のGOSATから推計した排出量の値を参考情報として活用したい」と高く評価されました。

プロジェクトの目的

上記業務においては、一大都市であるモンゴル国のウランバートルを中心とする都市域と広大な草原域を有するという、衛星観測データを用いた排出量推計が比較的しやすい条件を持つ国を対象としていました。
今後、モンゴル国以外の他国にもCO2インベントリ報告のためにGOSATシリーズ観測データを有効活用してもらうには、様々な条件を持つ国に対して適用可能であるか、排出量推計技術を評価し有効な技術の選定が必要となります。

モンゴル国以外のCO2インベントリ比較・検証を行う国の選定・協同関係の構築

GOSAT撮影状況調査より、中央アジア5か国においてCO2排出量は右肩上がりとなっていることが分かりました。次にEDGARのCO2排出量データと、GOSATL2プロダクトの観測点およびGoogleマップを重ね合わせた分布状況の比較について、中央アジア5か国で283か所のopportunity地域が導出されました。また、インドにおいても国内全域にわたり多数のOpportunity地域が認められました。

中央アジア5カ国(カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスタン、トルクメニスタン)を中心に、さらにインドとモルディブを加えて7か国を対象にGOSATシリーズ等のGHG観測衛星データや、それを協働で処理する研究機関、および人的交流や社会政策状況、その国が作成した温室効果ガス排出インベントリデータ等を調査して情報を整理しました。

さらに、利用可能なCO2等の地上観測データや運用経費等を含めた制約条件を候補国と協働して、GOSATシリーズ観測データをGHGインベントリ報告書作成作業時に活用されるためのあるべき合意形成プロセスを検討して調査しました。その結果、本事業ではラウンドテーブルへの参加国として中央アジア5カ国が候補として抽出されました。

候補国へは外交ルートを通じてラウンドテーブル会議への招聘を行う必要があったため、環境省と協働してJICA事務所及び外務省へアクセスし、担当機関に対してGHG排出量推定事業の意義について事前の説明を行いました。

  • 対象候補国を抽出し、採択条件を満たす対象国として中央アジア5か国を選定しました。
  • JICA 及び外務省との打ち合わせを通じて、中央アジア5か国についての諸状況を収集しました。
  • 中央アジア5か国外交記念樹立 30周年記念事業に参加することにより、外務省との連携を構築しました。
  • 外務省・現地大使館を経由して、各国政府関係者へ事業の説明が伝達され、ラウンドテーブルへの招聘者が決定されました。

ウズベキスタン

Tashkent地方の発電所、またホラズムの工業地域に、深堀のOpportunityがあると推定。5大発電所のCO2をGOSATで捉えている。施設老朽化に伴う改修・新設が急務で、METIもKHIとそのポテンシャルを調査済みでソリューション提案の可能性は高いと推察。

カザフスタン

北部の鉱山やガス田、Ekibastuz発電所及び南部のShymkentの発電所近郊、カスピ海沿岸のテンギス油田など、主要エネルギー産業施設にOpportunityがあると推定。

インド

大規模石炭火力発電所に加え、メガシティーやIT産業集積地であるニューデリー(ハリヤーナー州)やコルカタ(西ベンガル州)、ウッタルブラデーシュ州にOpportunityが認められる。さらに、ベンガル湾のディルバイ・ガス田や、マハーラー・シュトラー州沿岸のMumbai Offshore油田の資源開発地域にもOpportunityが認められ、発電所・工業集積地・資源開発地と種々の高排出地域で活用が期待できる。

モルディブ

CO2排出量は本調査の対象国中で最も低く、内訳は発電と移動体で9割以上を占める。発電は島しょ国の為、ディーゼル燃料による小規模分散型が主流。GOSATでは高排出源を観察していないものの、モルディブの周囲2度以内にはGOSATの観察点が確認でき、可能性が期待できる。しかし、人口の1/3がマレ島に居住していることを考慮すると、GOSATのOpportunity判断はマレ島の観察可否と推察する。

モンゴル国以外の CO2 インベントリ比較・検証を行う国の選定に向けたラウンドテーブルの開催

中央アジア5か国(カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスタン、トルクメニスタン)へ展開するべく、方法論を整理し、外務省及び各国大使館を通じて各国政府の担当者を2022年2月10日に招聘し、オンラインラウンドテーブル会議を実施しました。

会議ではモンゴルで先行しているCO2インベントリ比較・検証の成果を共有し、ラウンドテーブルに招待する被検証候補国におけるGHGインベントリの整備状況やニーズを理解した上で、GOSATデータの活用可能性について議論しました。
さらに、インベントリ比較・検証の成果を2026年~2027年に情報収集・準備プロセスが開始する第2回GSTに向けて活用することを目指すため、2021年11月から開始する第1回GSTの実施状況に関する最新情報及びGSTと強化された透明性枠組みとのリンクを説明したプレゼンテーションも行って共有しました。GSTに関する情報には、各国のインベントリの比較・検証の現状の整理も含めました。
各国との意見交換では、当技術の発信と各国のインベントリ作成に対する当技術の活用アプローチについて議論し、協働体制の構築に向けた必要な手順についても確認しました。

この結果 中央アジア5か国すべてが、GOSATシリーズを用いたGHG排出量推定事業に参加したいとの表明がありました。特に、中央アジアの中心国と位置付けられているカザフスタンの参加者からは、会議終了直後に「非常によかった。協力を続けたい」とのコメントが日本大使館を通じて外務省から報告頂いきました。

今後は、外務省及び中央アジア各国大使館にも協力を頂き、中央アジア各国と事業MOUを締結し、環境省が推進するGOSATシリーズを用いたGHG排出量推定手法を展開することが可能となりました。

  • ラウンドテーブル会議では中央アジア5か国すべてからGOSAT衛星を用いたGHG排出量推定事業に参加したい旨の発言があり、会議は大成功でした。
  • 特に、出席確認が会議の前日と最も参加意思表明の遅かったカザフスタンの参加者から会議終了直後に「非常によかった。協力を続けたい」とのコメントが日本大使館にあった旨を外務省から報告を受けました。

各国CO2吸排出量の推計精度の評価

候補国としてリストアップされた上記中央アジア5カ国を含む領域を対象に、GOSAT等の衛星データを活用したCO2インベントリの作成方法について検討し、EDGARとBURの比較や衛星データの整備など現地データに関する情報収集、順解析モデルの構築や地上観測データとシミュレーション結果の比較、CO2濃度の比較評価手法の整理など、必要なCO2排出量データやGOSATプロダクト等のデータ整備を実施しました。

  • 各国の BUR と EDGAR を比較した結果、それぞれ衛星データを活用して逆解析することでギャップを検出できる可能性を示しました。
  • WRF Chem を用いた CO2 の順解析を実施した結果、中央アジア5カ国を含む本解析対象領域のカラムCO2(XCO2)濃度は、主に東ヨーロッパやロシア、中国からの移流による寄与が大きいと想定されることがわかりましたが、カザフスタンなど5カ国のうち比較的CO2 排出量の大きい国においても排出状況を可視的に見受けることができました。
  • このような条件下において XCO2 濃度の逆解析による各国の CO2 インベントリデータと比較する手法について、グリーン関数を中心としたアプローチ方法を検討して整理しました。

情報公開の支援等

令和3年12月21日「令和3年度GOSATシリーズ観測データによる国別CO2インベントリ比較・検証業務JICA中央アジア 意見交換会」では、ラウンドテーブル会議に向けた準備として、本業務の成果等の情報公開・広報も含めた発信を行うイベントとして、中央アジア5カ国を対象としたJICA事務所等および外務省を通じたオンラインでの国際的な会議にて情報発信や意見交換を実施しました。

令和3年12月27日「環境省気候変動に関する中央アジアでの事業について 外務省中央アジア・コーカサス室 意見交換会」では、外務省中央アジア・コーカサス室意見交換会の企画・情報発信および技術情報公開を実施。中央アジアにおいて衛星使ったGHG排出量の推定に関する環境省のプロジェクトを進めて行こうとする展開の趣旨と意義について説明しました。

これらによってラウンドテーブルでの適切な招聘準備や、外務省での本事業の理解、今後の具体的な中央アジア5カ国へのアプローチに至ることができました。
また、本事業は、環境省を通じて外務省の中央アジア5か国外交記念樹立30周年記念事業として認定の申請を行い、記念事業としての広報活動も期待できることとなりました。

  • 中央アジア各国の研究機関におけるGHG 観測データの取得状況の調査を進めるとともに、各国の研究機関との共同で独自サンプリングを行い、GHG サンプル試料を中央アジア各国大使館の経由によりモンゴルに集約・計測する提案に関して協力する旨賛同を得ました。
  • 今後、各国大使館を通して MOU を締結する際に、ワーキンググループ会合や現地観測に関する方法等を記載する方向で準備することになりました。

有識者会合の開催及び運営

2022年3月1日に学識経験者5名を委嘱して「令和3年度GOSATシリーズ観測データによる国別CO2インベントリ比較・検証業務 有識者会合」を実施しました。
有識者会合では本業務で得られた上記の結果について説明を行い、検証国として選定された中央アジアにおける事業の今後について質疑・応答が行われ、有識者委員から事業方針・分析手法に関する活発な質問や議論が行われました。